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第99話 コクテンシン

Author: 黒蓬
last update Last Updated: 2025-05-29 06:00:37

少しすると一つの影が森から飛び出してきた。ロシェだ!しかし、彼女は上手く着地できずにバランスを崩すと地面を転がった。

『グッ!ッッツ!』

「ロシェ!大丈夫か!」

慌てて近づくと、ロシェの脇腹には鉤爪で付けられたであろう深い切創が刻まれていた。

急いでマジックバッグから回復薬を取り出そうとしたところでカサネさんの声が響く。

「エアストーム!」

広範囲を埋め尽くす風の刃が放たれ、ロシェを狙っていたイタチを足止めした。

その隙に俺は回復薬をロシェの傷口に掛け、残りは飲ませた。

嵐が収まった後イタチからの追撃が来るかと思ったが、カサネさんの魔法を警戒したのかイタチは森から出ようとはせず、しばらく憎々しげにこちらを睨みつけていたが、やがて森の中に姿を消した。

「まだ安心はできません。馬車に戻って早くこの場を離れましょう」

「あぁ、そうだな。ロシェ、大丈夫か?」

『えぇ。まだ痛むけど動けないほどじゃないわ。早くいきましょう』

そうしてなんとか、イタチの様な獣の襲撃を逃れた俺達は足早にその森を後にしたのだった。その後、あの森からかなり離れたところで漸く一息ついた俺達は周囲を見渡せる草原で休憩を取っていた。

「にしても何だったんだあの獣は。あんな体躯で軽々と森の中を飛び回るなんて反則だろ」

『あいつ、たぶん以前に私を襲ってきたのと同じやつだと思うわ。あの時は暗くてよく見えなかったけれど、動きが同じだった。何でこんなところに居たのかは分からないけど』

「俺達が初めて会った時にロシェが怪我させられたっていうあれか?」

『えぇ。私を執拗に狙ってきたのも、以前仕留め損ねた獲物を覚えていたのかもしれないわね』

「私もあんな獣は初めて見ました。森の外までは追いかけてこなかったので助かりましたね」

不意を突かれたとはいえ身体能力の高いロシェが命からがら敗走したなんて、どんな相手だったのかの思っていたが、あいつであれば納得だった。森の中であんなのと真面に戦える奴なんてそうはいないんじゃないだろうか。

「何にしてもロシェが無事でよかった。ロシェに任せて逃げることしかできな

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